阿仁根子

26 Mar. 2022

根子マタギコーヒー

根子=人・地域

マタギ=自然

コーヒー=手段

 

私たちは、集落の人々や家族との時間、自然との繋がり、そしてこの土地に訪れる人々、それらがコーヒーを介し、豊かに連鎖していく暮らしを作れたらと思い、焙煎所「根子マタギコーヒー」を立ち上げました。

 

地域の問題を考える

 

皆伐され禿山になった私有林、手付かずのまま放置された空き家、雑草が生い茂る耕作放棄地などなど、日本中どこの過疎地域には同じような社会問題が山積しています。この根子集落も御多分に漏れず、このままでは後戻りできない状況になりかねません。

コーヒー生産における小児労働やトレーサビリティ、環境問題などもコーヒーを扱う事業者ならもちろん考えずにいられませんが、もっと目の前にある問題を私は解決しなければならないように感じています。

消費者に対し、遥か彼方の生産国に想い馳せることを願っても、なかなか現実として捉えるには正直難しいのではないか。でも、この土地にコーヒーを買いに来られた方がまずは四方を見渡し、より身近な地域社会の問題がここにあるのを理解し、そこから問題意識を次のフェーズに持っていく。一つ一つのその積み重ねの先に、世界に山積する問題をきちんと自分ごととして考えることができるはずです。

 

 

コーヒーから始まる挑戦 「根子の本」の次なる企み

 

4年ほど前まであった自動販売機もなくなり、現在根子集落にはお金を落とす場所がひとつもありません。この土地に来てもただ車で集落を一周して帰るだけで、滞在することが難しいのが現状です。それでは何も生まれない。少しでも滞在できたり、地域の人と交流できる場があれば良いのではないか。これは地域の方々も口々にそう言います。そこで根子マタギコーヒーの収益の一部は、根子集落での新たな挑戦に役立てようと考えています。

 

2018年、私は友人であり仕事仲間であるデザイナーの澁谷さんと一冊の本を作りました。その名も「根子の本」。これは自分がこの土地に来て、長男が生まれ、日頃お世話になっている集落の方々に何か一つでもお礼ができないものかと考え、愛して止まない集落の人々、そして笑いが絶えない日々の暮らしを一冊の本にまとめたものです。何よりも集落の方々が喜んでくれ、全国にいる根子出身の方々からも想像以上の嬉しい反響を頂きました。その中で取り上げた一つの記事に、山田酉彦さんの空き家を考えるというのがありました。根子で古民家と呼ばれる家は2軒。その一つが酉彦さんのお宅であり、現在は秋田市に住む酉彦さんが月に数回通い家を維持している状態です。生まれ育った家を守りたい。その一心で今はまだ取り壊されず残っていますが、その労力を考えると残すことの大変さは想像以上です。地域のみんな、そして酉彦さんともたくさん話し合いを重ねましたが、やはりすぐに何かをできるほど簡単な問題ではないことを思い知らされました。とは言え、止まってては何も進まない。

根子マタギコーヒーはこの家の未来をみんなと共に考えます。

「120年を超える根子の想い出がこの家には詰まっている。」

高台に立ち集落が一望できるこの酉彦さん宅で、美味しいコーヒーを飲みながら、思い出話に花が咲く集落のみんなの顔を想像すると、自然と笑みが溢れて来ます。

 

熊と子供達が駆け回る森

 

かつての森の姿を想像することさえ難しくなってしまった現在の山里。猟期前、当たり前のように集落周辺まで熊が降りて来ては栗を頬張る。自然のバランスが崩れ、人への危害を防ぐための有害駆除。檻に入った熊を銃で撃つことは同じ土地で暮らす生き物同士として、どうしても人間有利という世界ができあがってしまっています。外敵=熊がいない方が人間が安心して暮らせる、という考えに行き着いてしまっては、ニホンオオカミと同じような末路が待っています。熊も人も当たり前のように暮らせる環境こそが自然であり、その自然に多大な影響を与えているのは、熊ではなく、人間の方です。自然の姿を取り戻すために、どうするべきかを本気で考えていく時が来ているように思います。根子マタギコーヒーとして、まずは小さな苗木を一本を植えるところから始めてみたいと思います。

 

 

子供達への想い

 

私は写真家として普段外に出て仕事をすることが多く、この土地でお金を稼ぐことができないことに少なからず違和感を感じていました。この集落が好きなのに、ここにいれないことはとても不自然に思えてなりませんでした。自分の子供たちに働く姿を見せる機会が少なく、それは子供たちにとって仕事は外に出なければできない、という固定観念が生まれてしまいます。今ある少子化の問題は少なからず、当たり前のように外に出て働く親の姿を見て育った子供が多いことが理由にあるはずです。土地に留まり仕事をすることが絶対ではないにせよ、この土地でも仕事を生み出すことができることを子供たちに知って貰いたい。それは将来の選択肢の一つとして、子供の頃から体感として持ち続けて欲しい。それもこの土地で焙煎所を開く一つの理由です。

ここに訪れた方が少しでも長い時間を過ごし、自然の豊かさ、マタギや番楽、集落行事が今なお続くこの土地の風土を肌で感じながら、コーヒーを飲み、地域の方々との交流が生まれれば、きっと10年20年先の未来、子供達が笑顔で帰って来れる場所は残っていくはずです。

 

 

根子マタギコーヒー

nekkomatagicoffee@gmail.com

 

© Copyright 2021. All Rights Reserved.

根子写真館